日産GT-R 2013年モデルに試乗|Nissan
Nissan GT-R (2013)|日産 GT-R 2013年型
5年目の珠玉
13年型日産GT-Rに試乗
2007年の発売以来、日産「GT-R」は、年々進化している。外見にこそ大きな変更はないものの、昨年は非対称サスペンションによる走行性能の向上が話題になった。今年は、どんな仕掛けが用意されるのか? ところが、我々の期待をよそに、2013年モデルとして発表された今年のGT-Rの変更点は、インジェクターやオイルパンの改良といった、ごくわずかなものだった。ならば、クルマはほとんど変わらなかったのか? しかし、日産の追浜工場に隣接するテストコース、グランドライブにて、2013年型GT-Rに試乗した渡辺敏史氏は、スペックにはあらわれない大きな変化を感じた。
Text by WATANABE Toshifumi
Photographs by ARAKAWA Masayuki
5年の歳月がもたらしたもの
日産「GT-R」の登場から、早いもので5年の月日が経った。
この間、世の中で起こったことは皆さんもごぞんじの通り。それらはことごとく、このようなスポーツカーにとってはひどい逆風となってきたはずだ。それでもなお、GT-Rは世界のマーケットで強いプレゼンスを放ちつづけている。その理由はこれまで、実に単純なものだったかもしれない。
登場時に度肝を抜いたGT-Rのパフォーマンスは、この5年、まったく輝きを失うことがなかった。ニュルブルクリンクでのラップタイムを焦点に、ライバルのキャッチアップは一時熾烈を極めたが、ことごとくそれらを上まわる数字を提示することで自らのアイデンティティを明確化しつづける。
言い換えればGT-Rはユーザーに「最速」を破格で確約することに邁進してきたともいえるだろう。
開発と熟成のためにひたすらニュル通いをつづけるその姿勢は、時に「ただ速いだけのクルマ」という揶揄にも繋がっていった。
かくいう僕も、プロトタイプから触らせてもらう機会を得ながら、どうにも心が動かなかったのはここに理由がある。
果たしてここまでの速さが自分に必要なのか。考えるほどにこのクルマと暮らすイメージが沸かなくなる。ひたすら凄すぎて、自分とはあまりにちがう世界の生き物。
文句なく日本の主砲として人に推せる存在だけど、面白いかどうかは話が別。僕にとってGT-Rというクルマはそんな位置にいるまま、この5年が通り過ぎていった。
Nissan GT-R (2013)|日産 GT-R 2013年型
5年目の珠玉
13年型日産GT-Rに試乗(2)
13年モデルとは
13年型GT-Rのメカニカルな変更点は、ここ2~3年の進化幅にたいすれば、さほど大きいものではない。どちらかといえばファインチューンの範疇に入るものだろう。
550psの出力に据え置かれるエンジンは、高出力インジェクターや過給通路の小改良により、高回転域までのフィーリングに伸びを持たせる工夫が施されている。また、オイルパン形状の変更で高負荷時の潤滑環境も改善されており、持てる力をより安定供給できるようになった。
日本仕様のサスペンションは12年型で車輌左右の重量差を補正する非対称設定となったが、13年型はその思想を継続しながらサスペンションリンクのブッシュ位置と反力を微修正することによりロール軸を若干低め、そこにあわせてダンパーやコイル、スタビライザーのレートを再設定している。また、ボディにもダッシュパネルまわりなどにあらたな補強がくわえられた。
エクステリアに変更点はないが、内装にはあらたに「ファッショナブルインテリア」と呼ばれるオプションを追加。これは内装フルオーダーシステムを採用する「エゴイスト」の汎用版にあたるもので、セミアニリン染のアンバーレッドレザーを太い番手の糸で縫いあげる豪華な仕立てになっている。シートは表皮ステッチやウレタン材を左右席で変え、運転席側はサポート性を、助手席は快適性を重視したつくりになっているのが特徴だ。
Nissan GT-R (2013)|日産 GT-R 2013年型
5年目の珠玉
13年型日産GT-Rに試乗(3)
最速への錬磨がもたらす上質感
5年の月日を振り返りながら車内に収まってみて、あらためて感じるのはGT-Rというクルマがそなえていた先進性である。
たとえばゲームソフト「グランツーリスモ」シリーズを手掛けるポリフォニーデジタルと共同開発したマルチインフォメーションディスプレイなどは、その情報の質にいまだまったく旧さを感じさせない。ここ数年、情報伝達機能の進化は激しく、今やメーターそのものを物理針から液晶モニターに置き換えて表現力を高めたものも増えている。が、伝えられる内容自体に、GT-Rほどの種類や精度をそなえたものはない。
そして走りはじめてみるとわかるのは、日々の積み重ねによる最速への錬磨が、巡りめぐって日常域での動的面での上質感として享受できるようになったということである。
具体的に言えば、13年型GT-Rは、12年型にも増して乗り心地がよくなった。そもそも大入力にたいする車輌上下動の量や速度は文句のつけようがないレベルだったが、年次の改良に従ってその減衰収束感が低速域にも及ぶようになり、13年型では攻撃的な硬さではなく、角の丸く取れた心地よい引き締まり感を全域で実感できる。
同時にはっきりとわかるのがメカノイズの大幅な減少だ。特にトランスミッションまわりの作動音は劇的に減少し、リアまわりから伝わる低級感は大きく影を潜めた。と同時に変速の締結感も少し柔らかくなったようにうかがえた。侵入音がクリーンになったことによる上質感の向上は、錯覚とはいえ結果的には乗り心地が改善されたとおもわせる一因になっている。
Nissan GT-R (2013)|日産 GT-R 2013年型
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13年型日産GT-Rに試乗(4)
GT-R進化の鍵
ちなみに13年型GT-Rのニュルブルクリンクにおけるラップタイムは7分18秒06。これは初期モデルにくらべれば実に10秒以上の向上となっている。
0-100km/h加速の2.7秒というタイムも、もはやブガッティ ヴェイロンとほぼ並ぶもの。とにかくワケがわからない位に速く、その速さの進化はもはや常人の運転レベルでは感じ取れないほどになっているというのが正直な実感だ。
とはいえ、はっきりとわかるのはその速さに丸さがくわわり、クルマの動きに心地よいとおもわせるしなやかさが伴っていることである。曲がることが事務的な作業ではなく、達成の実感を伴うものになってきた。言い換えれば、操る官能性がGT-Rに備わってきたというのは意外なことでもある。
先に記したこのクルマの進化は、単にエンジンパワーの向上や足まわりの改善というよりも、持ち得た能力をいかに完璧に路面に伝え抜くかという精度の向上によってもたらされている。そこには生産精度の向上という側面が大きく影響していることはまちがいない。
きけば6人の職人が全量を手組みするエンジンを計測すると、その出力曲線はプリンターが描く実線の範囲内に収束するほど個々のバラツキは抑え込まれているという。もちろん汎用車のラインで組まれるがゆえに実現した価格はほぼそのままに、開発側がしめしつづけた、汎用車ではあり得ない車体の組み付け精度は、作業員によってしっかりと吸収されてきた。
実はGT-Rの進化の鍵は、この作業精度にあり、日本の“モノづくり”の限界を突き詰めるという作り手の情念が、ついにはクルマに官能性をもたらすまでにいたっている。いたって概念的な話だが、現在のGT-Rが持つ特性を説明するにはそれが最も適した表現だとおもう。
機会があれば、初期モデルを所有した、あるいは経験したことのある人にこそ乗ってみてもらいたい。その差はまちがいなく、心に深く食い込んでくるはずだ。
NISSAN GT-R Pure edition|日産 GT-R ピュアエディション
ボディサイズ|全長4,670×全幅1,895×全高1,370mm
ホイールベース|2,780mm
車輛重量|1,730kg
エンジン|3.8リッターV型6気筒ツインターボ
トランスミッション|6段デュアルクラッチ式トランスミッション
最高出力|404kW(550ps)/6,400rpm
最大トルク|632Nm(64.5kgm)/3,200-5,800rpm
燃費(JC08モード)|8.7km/ℓ
CO2排出量|267g/km
価格|869万4,000円